脳トレによるワーキングメモリ(作業記憶)
の向上
健常な成人が5週間ワーキングメモリ(作業記憶)のトレーニングを行ったところ、ワーキングメモリの容量の増加と関連して、前頭葉と頭頂葉の活動増加が報告されています。成人において、脳トレにより神経の可塑的な変化が生じ、ワーキングメモリが向上することを示唆しています。さらに、ワーキングメモリが流動性知能を向上させるかについて、焦点を当てた研究を行っています。
70人の健常成人が参加し、実験群には週末を除いて毎日ワーキングメモリのトレーニングを行ってもらい、成績の変化を調べるとともに、実験前後に一般的な流動性知能を測る検査を受けました。実験の結果、ワーキングメモリのトレーニングにより、ワーキングメモリが向上するだけでなく、流動性知能の成績も向上することが明らかになりました。これは、特定の認知機能のトレーニングを行うことにより、流動性知能も向上するという転移効果があることが示され、トレーニングの期間が長いほど効果が大きいことも明らかになりました。
従来は流動性知能は、一定の年齢を越えたら伸ばすことができないと考えられていましたが、ワーキングメモリを鍛えることで流動性知能を向上させることができる可能性が複数の研究で示されています。一方で、脳トレなどでワーキングメモリを鍛えることが流動性知能の向上に繋がるという結果に懐疑的な研究者も多く、トレーニング効果を否定する報告もあり、現在のところは、まだはっきりとした結論が出ていません。
Jaeggi, S. M., Buschkuehl, M., Jonides, J., & Perrig, W. J. (2008). Improving fluid intelligence with training on working memory. Proceedings of the National Academy of Sciences, 105(19), 6829-6833.
身体運動と脳トレを組み合わせた
デュアルタスク
身体運動と認知機能をトレーニングする脳トレが、認知機能のトレーニング効果を向上させることが研究により、明らかになっています。2016年にドイツのルプレヒト・カール大学ハイデルベルクの研究者らが、システマティックレビューでデュアルタスクの効果を検証しました。週に1時間以上、4週間継続して、デュアルタスクと認知機能の関係性を調べている20本以上の論文を分析しました。分析の結果、運動や脳トレを単独で行うよりも組み合わせて行う方がより効果が高いことがわかりました。
(但し、トレーニングされた認知機能に限定的であり、トレーニングの長さ、頻度、期間、強度、タスクの難易度などが影響を及ぼしているとも考えられ、更なる研究が必要であるとも記されています)日本では、国立長寿医療研究センターが中強度と認知課題を同時に行う「コグニサイズ」を開発し、普及を目指しています。例えば、100から3を引く引き算をしながらウォーキングを行ったり、しりとりをしながら踏み台昇降を行ったりと様々なバリエーションがあります。2つ以上のことを同時に行う能力は、加齢に伴い、衰えやすいことが明らかになっており、このような機能を維持するためにもデュアルタスクに取り組むこともよいといわれています。