社会的な環境に適応するための脳の進化
1998年、イギリスのオックスフォード大学のロビン・ダンバーは脳に対する思考を司る大脳新皮質の割合を霊長類間で比較しました。サルなどの霊長類は社会的なグループを作って生活することが知られていますが、グループの規模が大きいほど、脳における大脳新皮質の割合も大きいことがわかりました。この進化論的に重要な知見は現代社会に生きる認知機能に社会交流が重要であることを示唆しています。
近年、脳の活動の様子や機能を画像で見ることができる装置が発達し、社会交流を脳がどのようなプロセスで行っているかがわかってきました。社会交流を行っているときの脳は、ネットワークを形成して働いているのです。また、人とのつながりや深い共感を得たときは、脳はオキシトシンという幸せな気持ちになるホルモンを放出し、つながることは心地よいと思わせ、つながりを求める行動に駆り立てます。
Dunbar, R. I. (1998). The social brain hypothesis. brain, 9(10), 178-190.
社会との繋がりと扁桃体
脳には情動を司る扁桃体があります。扁桃体は、情報を海馬に伝達することから、人の記憶にも大きな影響を及ぼしています。また人の表情の認識も担っており、社会的行動には扁桃体が重要な役割を果たしていることが知られています。研究チームは社会的なネットワークの大きさと複雑さを調査し、MRIスキャンを用いて、参加者の扁桃体の大きさを測定しました。参加者の年齢と脳全体の大きさを考慮した計算により、扁桃体の大きさと社会的ネットワークの大きさ、複雑さに相関があることを発見しました。
人の扁桃体は社会生活が複雑化するにつれて、それを処理するために部分的に進化してきた可能性を示唆しています。
Bickart, K. C., Wright, C. I., Dautoff, R. J., Dickerson, B. C., & Barrett, L. F. (2011). Amygdala volume and social network size in humans. Nature neuroscience, 14(2), 163-164.